私たちの意見
社会保障や税制度に対する改定の流れにに対し、私たち高齢者・障害者のための生協として活動する和歌山高齢者生活協同組合として、以下の意見を表明します。
社会保障の充実・強化こそ国民の願い
介護保険法「改正」案を廃案に!
少子高齢社会が伸展し、給付と負担の関係が大きく変化する中で、社会保障制度改革国民会議は、負担のあり方を「年齢別から能力別へ」とする報告書をまとめた。通常国会では「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案」が審議中だ。
そもそも介護保険制度は、高齢者の自立と尊厳ある暮らし(高齢者福祉三原則)を支えるために、家族依存の介護から決別し、介護を社会化することを目的に導入されたものだ。その制度の根幹には、地域社会に立脚する分権的介護システムを通じて、市民の制度参加を促し、市民の意識を変え、地域が支える高齢社会を展望していたはずだ。しかし、介護を市場に委ね、儲け優先の中で高齢者の自立と尊厳が守られない介護が横行した。分権的介護システムは絵に描いた餅で、国主導の下で進められた制度「改正」は、時々の政治情勢に翻弄され、介護保険制度は、その理念を大きく歪め、複雑で分かり難いものになった。
在宅で最後まで暮らし続けたいという高齢者の願いを実現するための「地域包括ケアシステム」の構築や「認知症対策」などは、待ったなしで進めなければならない課題だが、十分な予算的裏付けも無く、地域支援事業に多くを委ねる「改正」内容となっている。市町村に責任と権限を押し付けることを通じて、介護給付費を抑えることだけが目的になっているかの如き「改正」案だ。
中央社保協が全国の市町村に行った「介護保険見直しに関する緊急調査」によると、答えた606自治体の内、例えば、予防給付の一部を地域支援事業に移行することについて、不可能と答えたのは198団体、判断不可が246団体、可能と答えた自治体は104団体に過ぎない。今回の制度「改正」に多くの市町村が戸惑っている。国の一方的な都合で「改正」を強行しているということだ。もっと、実施団体である市町村の意向に耳を傾けるべきであろう。
加齢と共に生きる能力が衰えた高齢者は、誰もが介護を必要とする。介護の内容は生活環境によって様々だが、誰もが平等に尊厳を持って生き続ける権利を持っている。介護保険は、その権利に応える内容を提示できなければならない。
しかしながら、「改正」案は、多くの介護家族や高齢者が期待している内容とは程遠いものだ。今後も給付抑制と負担増が続くなら、介護保険制度は崩壊の危機に瀕するだろう。介護保険法「改正」案は廃案にすべきである。
(1)予防給付(訪問介護・通所介護)を市町村事業へ移行することに反対する。
社会保険にとって給付は保険料を支払っている人の権利である。予防とは言え、給付を認めないことは、要支援1・2の方々の権利を奪うことであり、社会保険からの排除ではないか。
支援1・2と認定されている人は140万人~150万人と数が多い。給付があって何とか生活を維持している人がいるという現実を見るべきである。予防給付をなくせば、多くの人の暮らしに影響が出る。
政府は、予防給付(予防訪問介護・予防通所介護)を、市町村事業に移行することで予防効果が上がると説明する。果たしてそうか。予防事業となれば、給付と違い、予算の範囲内のサービスに留まることになる。費用が足りなくなることを懸念する市町村は、サービス量を少なくしたり、専門職を利用せず安上がりのサービスを提供したり、質が担保されない可能性が高い。
さらには、利用料やサービス基準に地域格差が生じることは明白だ。市町村の予防事業がうまくいかなければ、要介護者の急増というしっぺ返しとなる懸念が大きい。
前回の制度「改正」(2012年4月)で導入された「介護予防・日常生活支援総合事業」も同様の狙いだったはずだ。成果があったという報告もない中で進めることには問題がある。
(2)特養への入所を介護度3以上に限定することに反対する
厚労省の発表では、特養待機者の数は52万人と4年前から10万人も増加している。病院完結型から地域完結型へ、医療費削減を目的にした医療と介護の一体改革は、医療ニーズを抱えた高齢者に行き場のない暮らしを強いている。地域包括ケアを進めることは理解できるが、直ぐに間に合う話ではない。一人暮らしや介護家族の状況など在宅で暮らし続けることが困難な高齢者は一層増え続けるだろう。
特養の入所基準を介護度3以上に限定し、特例を認めるという改正は、施設不足を棚に上げた責任逃れの「改正」に等しい。特養入所を希望しながら入所できない人を増やし、介護家族の負担感を更に重いものするだけだ。
(3)一定以上の所得のある人の利用負担を2割にすることに反対する。
払える能力がある人が払うという応能負担を支持する私たちの立場からは、負担能力のある人は負担すべきという議論は理解できる。しかし、介護保険制度の導入は、福祉として措置していた時代から、経済状況や家族状況を考慮せずに、給付が必要な状態になったら誰でも利用できる「社会保険」への移行だったはずではないのか。社会保険である以上、保険料を支払っている人は平等に給付を受けられるべきだ。すでに保険料の負担が所得に応じたものになっている。その割合が低いというなら保険料負担の仕組みを改めるべきだろう。
また、1割負担でも利用を控えている人がいるという事実もある。2割負担は一定の所得のある人にお願いする措置とはいうが、給付の自己抑制につながることは十分予想される。その際の介護負担は家族や本人に及ぶことになる。介護の社会化とも矛盾することにならないか。また、重度化を招くことにならないか。
さらに、一定の所得の基準が曖昧である。医療では現役並みの所得を単身者で383万円、夫婦で520万円としている。なぜ、介護は個人単位で280万円を基準にするのか。医療とは違い、いつまで続くか分からないのが介護である。納得できる説明がない。
(4)2025年に向けた介護報酬の改定スケジュールを示すべきだ
2025年に向けて介護職員は100万人程度の増加が必要だ。しかし、介護業界では離職が多いことや、恒常的な人不足が常に問題になっている。やりがいがある職と評価されながらも、典型的な3K職場として嫌われている面がある。
介護職員の処遇改善は2009年から特別に取組まれてきた。調査によれば、一定の改善があったと評価されているが、全産業の平均と比較すれば、まだ大きな開きがある。生活のためにダブルワークを余儀なくされる職員がいたり、結婚を機に「寿退社」をする男性職員がいるという他の業界ではみられない実態がある。介護事業者の努力には限界がある。
この状況を変え、誇りある職業として、介護の職に就く人を増やし定着させるためには、賃金を大幅に向上させることが必要だ。2025年に向け、介護報酬を賃金改定の為にどう引き上げるのか、そのスケジュールを示すことが政府には強く求められている。
介護保険の「改悪」を許さない行動に立ち上がろう
高齢者が組合員の大多数を占める高齢者組織として、社会保障制度に関心を持ち、声を上げることが私たち高齢協の社会的使命です。組合員に、介護保険制度「改正」の内容を伝え、共にその「改悪」許さない運動に取り組むことを呼びかけよう。
- 「改悪」を許さない運動への賛同署名に取り組もう
- 市町村議会の反対決議を求める運動に取り組もう
- 「改正」案の影響について、市町村との懇談会に取組もう
2014年4月25日
日本高齢者生活協同組合連合会
第4回 理 事 会